第46回 無題
極!石田塾
2023.03.28
※コルトレーンより
いつもは石田様に送っていただいた原稿に、私が表題を付けて掲載しておりますが、今回はあえて表題なしで掲載させていただきます。
デヴィッド・ボウイ、ルー・リード、ウィルコ・ジョンソン…etc.数年前からリアルタイムで見たり聴いたりしてきたミュージシャンがどんどん亡くなり「自分の死期も近いのかなぁ…」とどんよりした気分になっています。実際、僕も4年前に死にかけていますしね。そして今年に入って高橋幸宏さん、鮎川誠さん、そして坂本龍一さんと、日本の大物ミュージシャンが次々と亡くなり、ショックを受けています。まあ坂本教授に関しては、以前から癌を公表していたし、直前にまるで遺作のようなライブをNHKで流していたので、それほどショックは受けなかったのですが、もうライブでは聴けないと思うと悲しくてやりきれません。
僕が初めて坂本教授の音を耳にしたのは、レコード屋でバイトを始めた高校2年の頃。その頃、僕は汽車(電車はまだ通っていなくてディーゼル機関車の列車でした)通学をしていて、たまたま入った駅前のレコード店のお姉さんがメチャ可愛かったんですね(笑)。それで通い詰めて、授業が終わって汽車が来るまでの間、バイトするようになったんです。自分で聴きたいレコードの注文を勝手に入れたり、今じゃ(その頃も?)犯罪でしょうが、レコードをコピーしたり幸せな時間でしたね。
そんな時出あったYMOは衝撃的でした。当時はロックしか聴いていなくて、レッド・ツェッペリン派とディープ・パープル派に別れて論争していた時代です(笑)。僕はどっちでも良かったんですがロックにハマったのがツェッペリン始まりだったので、いちおうツェッペリン派に分類されていました。といいつつ、コロシアムII(かつてゲーリー・ムーアが在籍していたバンド)を聴いて以来、プログレ系のクロスオーバー(フュージョンの前身)にはまっていたため、どっちでも良かったんですけどね(笑)。
そんな時に現れたのがYMOです。最初は「なんじゃ、これ?」って感じでした。しかし、レコード店の中で何度も繰り返して聴いているうちに耳から離れなくなっていきます。しまいには、何気なくメロディを口ずさんでいる事実。中毒です(笑)。特に好きなわけではないけれども、頭に残ってしまう音楽。それがYMOでした。
坂本教授のことを大好きになったのは、もっと後。映画「戦場のメリークリスマス」が公開された後です。デヴィッド・ボウイやビートたけしも出演している話題作ということで見に行ったのですが、テーマ曲のピアノのなんて美しいこと。役者としては正直、どうかな? と思いましたが(笑)、音楽を聴いて一気にファンになりました。
鮎川さんを初めて聴いたのも、やはりレコード屋でバイトしていた頃です。店の中にあるレコードならなんでも聴ける状態にあったので、気になるレコードはすべて聴いていたのですが、1979年に発売された名盤「真空パック」は繰り返して何度も聴きました。CM曲になったYou May Dreamは有名でしたが、僕はLAZY CRAZY BLUESが好きでしたね。これ、後で知ったのですがプロデュースは細野晴臣さんだったんですね。
その後、東京に出てきた後も、何度かライブを見にいきました。印象に残っているのは、どこかの学園祭での出来事。ステージ上で鮎川さんとシーナが喧嘩をして、シーナがステージを降りちゃったんですね。残された鮎川さんは一瞬戸惑った後、持っていたギターを大きく上げ「ギブソン・レスポール!」と叫び演奏に移っていったんです。このとき「あー、いい人だ」と実感しました(笑)。
このように、この頃に体験した音楽は、今でも僕の心の中で鳴り響いています。じゃがたらもそうですね。当時、渋谷にあったライブハウス、屋根裏でライブがある時には必ずといっていいほど行っていました。あと、フールズやジャングルズ 。残念ながらフールズは、ヴォーカルの伊藤耕さんがタイミングよく(悪く?)捕まってしまっていたので一度も見ることができませんでしたが、ギターの川田良さんがやっていたジャングルズ は新宿コマなどで何度か見たことがあります。鋭いギターがものすごくカッコ良かったですね。
残念ながら耕さんも良さんもすでに亡くなってしまったし、じゃがたらのあけみはとっくの昔に亡くなっているので、もうライブを見ることはかないませんが、僕の心の中には常に鳴り響いています。そして音源とオーディオ機器さえあれば、その当時の感情が蘇ってくるんですね。これがオーディオの良さのひとつでもあります。
今、サウンドミート時の基準曲を探しているのですが、1曲は亡くなった人たちへの敬意を込めて、何かを選ぼうと思っています。じゃがたらかジャングルズにしようかな?とも考えたのですが、あまりにもニッチすぎるので、ここは坂本龍一さんですかね。ただ、最近の演奏を聴くとあまりにも切なくてジャッジ中に泣いてしまいそうなので(笑)、元気だった頃のものにしようと思っています。「Merry Christmas Mr.Lawrence」だとあまりにベタなので、この曲を元に元ジャパンのデヴィッド・シルビアンが歌を入れた「Forbidden Colours」あたりを考えています。
このように、たとえミュージシャンが亡くなっても、音源さえ持っていれば、いつでも音が楽しめるのがオーディオの良さ。もちろんライブのような一体感は得られませんが、落ち着いてじっくりと聴ける良さがあります。そして、ミュージシャンが亡くなったとしても、音源がいつまでも残るという良さも。だからオーディオ機器に金をかけるのもいいですが、皆さんには是非、音源にも多くのお金を使ってもらいたいものです。
と、このような原稿を書いていたら、なんとマーク・スチュワートが亡くなったという情報が入ってきました。マーク・スチュワートは1970年代後半にデビューしたザ・ポップ・グループのボーカリスト。「Y」というアルバムを聴いて、僕の音楽感は大きく変わりました。カテゴリー的にはオルタナティブに含まれるんでしょうが、ファンク、ノイズ、ヒップホップ、テクノなど様々な要素が含まれていて刺激的。こっちを基準曲のひとつにしようかなぁとも考え始めました。
このように、世の中には心に残っている音楽がたくさんあります。そして音源とオーディオ機器があれば、古い音楽でもいつでも高い鮮度で再現できるのです。これがオーディオの良さのひとつなんです。